研究の背景

わが国の高齢化率は20%を超え、5人に1人が高齢者という超高齢社会を迎えており、今後、さらに高齢化は進むことが予想される。高齢期における重篤な疾患には認知症(高齢人口の15〜18%)や身体的フレイル(平均10%)があり、わが国の公衆衛生的な重点課題となっている。さらに、要介護認定者は13年間で2.6倍に増加し、介護期間も長期化の一途を辿るなど介護需要が増大している。このような状況は社会保障費の増大をもたらし、近い将来、さらに需要は増える。

2006 年、厚生労働省は軽度の要介護認定率が増加していること、介護サービスが介護レベルの維持・低下(改善)につながっていないことを問題視し、介護保険制度を全面的に見直した。介護予防では、科学的根拠が不十分とされる認知症・うつ病・虚弱対策について市町村の地域支援事業として位置づけ、市区町村レベルでの実態把握を奨励している。しかし、これらの対策を講じるには、個人の身体的・心理的な要因のみならず、社会・環境的な要因も影響することが指摘されている。

近年、身体的・心理的・社会的な機能の低下状態は「フレイル」と呼ばれている。フレイルは、高齢期に心身の機能が低下することによってストレスに対する耐性が減弱し、身体的(筋力低下や動作の俊敏性の低下など)・心理的(認知機能低下やうつなど)・社会的(独居や閉じこもり、経済的困窮)といった様々な機能障害に陥りやすい状態を総称した症候群である。フレイル研究で最も使用される指標は、「体重減少」、「疲労感」、「歩行速度低下」、「筋力低下」、「活動性低下」の5項目から構成される(Friedら)。これらの指標のうち、3項目以上に該当する場合を「フレイル」、2項目に該当する場合を「プレフレイル」と定義される。

高齢者を対象とした健康増進事業では、地域の運動施設を利用して様々な介護予防教室や健康教室が開催されている。しかし、その内容は主に集団的な対面指導であることから、フレイルのような身体的・心理的・社会的な機能低下がみられる高齢者では、実施施設への移動手段がないことや参加者との交流意欲が乏しい(または苦手)など、健康増進に取り組む以前に様々な問題が潜在している者も少なくない。すなわち、社会や環境が個人の行動・心理状態に影響し、個人の健康に影響を及ぼしている可能性がある。これらのことから、健康行動の維持・改善を個人にアプローチするのみならず、誰もが健康行動の維持・改善に取り組むことができる社会・環境を構築する必要がある。


目的と意義

本研究の目的は、非対面(遠隔)型のフレイル予防に適した運動プログラムを開発し、その運用も含めた全体の指導システム(通信媒体の選定、作成、実証)を構築し実用化を図ることである。多くの疫学的な前向き研究において、運動習慣や身体活動の促進および座位行動の抑制は、生活習慣病および介護予防における強力な保護因子であることが解明されつつある。しかしながら、運動介入研究を用い、これらの因果関係を実証した研究は極めて少ない。その背景として、運動行動変容のための効果的な運動プログラムの開発に加え、その介入方法の不備によるところが大きい。そのため、積極的な介入プログラムの開発とその効果評価およびメインアウトカム評価(短期:フレイル、サルコペニア、認知機能、長期:要介護認定状況)が切望されている。

本研究では、非対面(遠隔)型の指導方法を用いた運動ツールを開発することにより、閉じこもり・独居・経済的困窮などの理由からもたらされる身体活動量や体力の低下を阻止するための新たな運動介入システムの実行可能性を明かにできる。
また研究成果を身体的フレイルや認知機能低下予防や要介護認定率の適正化へと結びつけるため、自治体との協働による広汎な対象者への健康改善にアプローチできるビジネスモデルを構築することを見据えた研究とする。

平成29年度研究では、福岡県糸島市でのフレイル評価に基づくコホート研究(糸島フレイル研究:IFS(Itoshima Frailty Study))おいて約1,000名のコホート、運動プログラム及び非対面(遠隔)指導のモデル、平成30年度介入研究プロトコール作成等を行った。
平成30年度研究では、介入研究プロトコールに基づき、116名のプレフレイル保有者を対象とした3ヶ月間のIoTを用いた対面・非対面(遠隔)の運動指導およびコンサルテーション介入を実施しその効果を検証すると共に、研究成果を用いた事業モデルの構築及び社会効果の計測を行う。